About

「近代書物流通マップ (beta版)
―書物をめぐる動態/近代知の軌跡―

国文学研究資料館「近代書誌・近代画像データベース」からピックアップした明治17~21年発行の書籍747点について、奥付から発行元・印刷所・売捌所に関する所在地を新規に採録し、位置情報(緯度・経度)を使用して Google マップ上に座標を表示しています。

「近代書物流通マップ」は、書物の作成・出版・流通にかかわる情報を空間上に描出することで、近代日本の書物をめぐる動態を可視化し、近代知の伝播と啓蒙の軌跡を新たに捕捉することを目指すものです。

Usage

地図に表示されるレイヤーについて

レイヤーは10(設定上限値)からなり、デフォルトビューは以下の2レイヤーです。
 1 流通マップ(業種別)_明治17~19年
 2 流通マップ(業種別)_明治20~21年
レイヤータイトルの チェックボックス操作により、表示を切り替えることができます。
 3 流通マップ(文献別)_『檜垣山名誉碑文』(1884)
 4 流通マップ(文献別)_『三英双美/政海の情波 第一巻』(1886)
 5 流通マップ(文献別)_『現今の政事社会』(1887)
 6 流通マップ(文献別)_『世界進歩/第二十世紀』(1887)
 7 流通マップ(文献別)_『世界進歩/第二十世紀第三篇』(1888)
 8 流通マップ(文献別)_『滑稽/変挺演説会』(1888)
 9 流通マップ(印刷所)
 10 流通マップ(発行元)
3~8までの個別文献のレイヤーでは、当該書籍がどのような販売網をもっていたかをビジュアライズします。ここでは、50以上の売捌所をもつ文献6点を選んでいます。
9と10では、印刷所と発行元の分布状況を俯瞰します。(Google マップの機能制限により、上位20箇所以外は「その他」として一括表示)
+-アイコンで地図を拡大・縮小表示することで、求める地域にズームイン・アウトして、より詳細な位置情報や近接関係・立地状況などを確認できます。


ピンアイコンについて

近代文献747点の奥付から取得した所在地をもとに、位置情報ピンを付与したユニークレコード数は3,552件にのぼります。(デフォルトビューで、全件表示)
ピンアイコンをクリックすると、詳細情報①~⑥がサイドバーに表示されます。
 ① アドレス種別  …… 発行元 / 印刷所 / 売捌所
 ② 名称      …… アドレス主体の固有名詞
 ③ 所在地     …… 奥付記載の住所表記
 ④ 情報取得資料名 …… 情報を得た資料の認定書名
 ⑤ 出版年     …… 同上の出版年時
 ⑥ 近代書誌DB_URL……「近代書誌・近代画像データベース」へのリンク
「近代書誌DB_URL」をクリックすると、当該資料の詳細な書誌情報と奥付等の画像を確認できます。
ルーペアイコンをクリックすると、当該マップテキストから情報を検索し表示します。

Description

「近代書物流通マップ」は、明治17~21年発行の書籍の奥付に記された住所表示をもとに、現在の住所に置き換えた位置情報(緯度・経度)をマップにピン表示しています。明治前期のわずか5年間ですが、この時期の書物発行にかかわる商賈が、日本全国に点在する様相を可視化し、どのように流通網が張り巡らされ拡充していくのかを一望することを企図し作成したものです。

たとえば、[図1]は『檜垣山名誉碑文』(明治17年)の奥付から得られた位置情報です。
出版人:法木徳兵衛(日本橋区元大阪町拾一番地)の元から、北は小樽港(売捌所:塚田房吉)まで約845km、南は対馬(売捌所:吉田直二郎)まで約970kmの道程を、売り主が販路として約束していたことになります。
ちなみに、本書の売捌所は全国62箇所におよびます。

[図1]春光舎風禽著『檜垣山名誉碑文』流通マップ


[図2]の左図は、『世界進歩/第二十世紀』の初篇(明治20年再版)です。発行元は大阪の岡島宝文館および同支店で、明らかに西日本一円を中心とした売捌販路であることがわかります。翌年の明治21年に、同書の第三篇が刊行されますが、奥付によると、発行元は大阪と東京の2書肆(岡島宝文館および鶴声社)に変更されているものの、右図のように、売捌にほぼ変更がなく西日本一円であることが確認でき、鶴声社の出版関与を考察する上での示唆となります。

[図2]服部誠一訳『世界進歩/第二十世紀』(初篇・三篇)流通マップ



奥付に記される住所には精粗があり、同一発行元であっても、資料によっては番地まで記すケースと府県レベルの記載にとどまるケースが混在しています。当マップでは、原則、固有名称(発行元名・印刷所名・売捌所名)の名寄せによる所在地情報の統一はおこなっておらず、座標のピン表示は厳密なものではありません。747点の書籍から採取した3,552件のピン情報は、重複・精粗・異同を含め現時点では原典ママとしています。「近代書物流通マップ」プロジェクトを、今後どのように展開していくかを含め、課題としたいと考えています。

JAPAN/MARC等に準拠した書誌データの作成では、印刷や売捌等業主(printing, retailing and subscription agent)に関わる記述が目録情報から欠如しがちな現状に対し、それらの重要性を周知する端緒ともなることを期し、「近代書物流通マップ」β版をここに公開する次第です。

以下、本プロジェクトでおこなったマッピング作業の概要です。


1.住所マッピング作業の手順

1-1.「近代書誌・近代画像データベース」により奥付画像を確認し、発行元・印刷所・売捌所として記載される名称および所在地を採録する。
 ※「発行元」「発売所」「発兌所」等の表記がなく、発行人・発行者・発兌人等として個人名が記載されている場合であっても発行主体と認められるケースにおいては、「発行元」として採録した。
 ※所在地は、原則として、奥付等に記載の住所表記のまま採録した。
 ※一部のデータに関しては、試験的に、他の情報源(例:国会図書館デジタルコレクション)によって同一文献と同定できた場合に限り、採録した。

1-2. 奥付記載の住所から、現在の住所を特定し、緯度・経度情報を確定する。
 ※旧住所から現在の○丁目○番地まで特定できない場合は、下記の方針によった。
   例)「日本橋区横山町三丁目」 → 現在の「中央区日本橋横山町」
   例)「東京」のみ記載 → 「東京」のまま

2.奥付記載の所在地から現在住所を特定するために使用したサイトや情報源

 ●市町村ごとのHPなどで旧地名を検索し、現在の地図と重ね合わせ、現在住所を特定。
 ●ウィキペディアでの旧地名検索
 ●Goo地図の「古地図」タブ:明治の地図により、当時の地図上での住所名と位置を確認し、現在の地図と照合し、現在住所を特定。
 <古地図の例>
 ◆日本橋界隈古地図
   明治地図
   江戸切り絵図
   日本橋地域住居表示後の町名町域対照地図
 ◆銀座界隈古地図
   銀座一丁目~八丁目震災復興・区画整理前後の町名町域対照地図
 ◆東京市神田区界隈古地図
   昭和初期・震災復興期における町区域のの新設と変更の対照図
 ◆東京市麹町区
   昭和初期・震災復興期における町区域の新設と変更の対照図
 ◆南伝馬町・江戸城 界隈
   江戸・東京 見どころMAP(上野風月堂HP)
 ◆大阪東区界隈古地図
   大阪 東区 北久太郎町 古地図 and 検索

その他、明治期だけでなく江戸・大正・昭和期の町名図や地図等、行政区画や住所の変遷がわかるものを参照。

Acknowledgments

◎「近代書物流通マップ」(β版)コンテンツ等作成メンバー


 青田寿美 ・ 澤本美希子 ・ 関徹夫 ・ 戸松恭子 ・ 屋代純子 (50音順、下線統括責任者)
 Thanks to the support from 筒井優子




◎ 画像について

 トップ背景画は、@kzhr 氏が作成し で公開されている以下の画像

  を加工したものです。
 それ以外は、「近代書物流通マップ」本体のキャプチャ画像となります。(一部、アカウント管理者のみのビューキャプチャを使用)




※ 本データは、科学研究費補助金 基盤研究(B)「多元知識の活用による日本文学情報ナビゲーションの研究」による成果の一部です。データの再配布・転載を禁止します。